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Channel: 途夢風情感
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巻末付録4:Prelude to our precious J ~with“No One Else”~

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《ジャズという「事象」、その文化への想い》 17歳の青年時代に遭遇して以来、私の人生において欠かせない「存在」で在り続けているジャズという音楽(創造)は実に興味深い「事象」だと思っている。 その文化的側面は、どんなに文明の利器が発達し、出廻ろうとも、基本的に「アナログの精神」が継承され息づいているようにも思う。 大人達は大小のジャズ・クラブに赴いては、お気に入りの一杯を口にしながら、目の前(ステージ)でそれを創造する才人達とその奏でる音に対峙している(半世紀以上前の人々がそうであったように!)。 日本固有のジャズ文化に、「ジャズ喫茶」という存在がある。 デジタルの世(21世紀)になっても、(「儲け」とはおよそ縁遠い方法論もて)ミッションを敢行する店主及びそこに足を運ぶジャズ好きの精神性たるや、文字通りの「アナログ」の最たるものであろう。 ジャズ喫茶で、コーヒーを傍らに、最良のオーディオ装置から流れる過去の名盤(LP)の音に傾聴しつつ、他のテーブルの「同志」達のたたずまいを感じていると、「向こう側」とこちらの実際の空気感が一(いつ)になる感覚(共時性)に囚われ、胸が熱くなる瞬間がある。 「何て幸福な時空の中にいるのだろう」と。 [勿論、生演奏の場でもそれは得られるのだが、残念ながら、(空気感よりも)簡便なるモノの「雄弁性」に身を委ねてはそれを不躾(理抜き)に介在させてしまう近頃増殖の素人カメラマン達の存在及び所業によって、その感慨が損なわれる機会が増えた。彼等の徒らで場違いな「表現欲」の行使(濫用)は明らかな越権行為であり、ジャズの「一期一会」性の価値を軽んじると共に、本来護られるべきアーティスト達の各権利を侵害している] ジャズ文化において、「実に興味深い『事象』」の最たる存在なのが、決して廃れることなく、輩出してくる若い女性ヴォーカリスト達の姿だろう。 彼女達が夜な夜な歌い上げるナンバー(スタンダード)の多くは、彼女達が生まれる前、それも遥か以前に創られた楽曲が殆どである。 彼女達はそれらひとつひとつに真摯に向き合い、惹かれ、咀嚼し、自身の表現にまで高めていく。 しかも、彼女達が対峙しているのは、自分よりも遥かに年配の世代(オジサマ)ばかりなのである。 勿論、ネット上で今日の女のコらしい側面も見せてはいるが、ジャズ文化の真摯な継承者たる彼女達のたたずまいに、やはり感じ入るものが多い(華やかさの陰にある日々の奮闘や心の葛藤を含め)。 見た目の愛らしさや美しさ以上のものに相対していることがとてもかけがえのないことに思われて、彼女達次代一人一人を見守っていたくなるのだ。 《秋元直子『NO ONE ELSE』:ライナーノーツを担って》 その中のお一人、80年代半ば生まれの(ジャズの世界ではまだまだ)若手の女性ヴォーカリスト秋元直子さんが、2012年4月4日に、初のリーダー・アルバム『No One Else』(MARM-0004/税込\2,000)を発表した。 初遭遇から(現時点で)5年程になるが、その抜きん出たライヴ・パフォーマンス及び誠実且つチャーミングな御人柄は、このブログでも度々話題にしてきた。 次代のこの国のジャズを間違いなく担っていく、(天賦の才能のみならず)研鑽を積むことを大いにエンジョイされている、新進気鋭のジャズ・ヴォーカリストである。 一夜一夜、充実のライヴを重ね、(老若男女を問わない)ファンを増やし続けてきた秋元直子さん(以下敬称略)。 満を持しての初めてのアルバム(CD)だが、光栄かつ喜ばしいことに、そのライナーノーツ執筆を御本人直々に依頼されて、記念すべき第1作リリースの一翼を担わさせていただいた。 御本人から手渡された音源を聴いてすぐに彼女にメール送信した草稿は、制作サイドも含めて気に入って下さり、ほぼ原文通りに活用と相成った。 5年後や10年後のジャズ・ヴォーカリスト秋山直子の立ち位置を想像してみる時、その時点でも決して恥ずかしくない文章だと自負している。 《秋元直子『NO ONE ELSE』:収録曲について》 1.MOONDANCE (作詞&作曲:ヴァン・モリソン) 2.NO ONE ELSE (作詞&作曲:秋元直子) 3.I'VE GOT A CRUSH ON YOU (作詞:アイラ・ガーシュウィン/作曲:ジョージ・ガーシュウィン) 4.THIS MASQUERADE (作詞&作曲:レオン・ラッセル) 5.センチメンタル (作詞&作曲:平井堅) 6.あじさい (作詞:星梨津子/作曲:秋元直子) 7.FLY ME TO THE MOON (作詞&作曲:バート・ハワード) 1曲目、“MOONDANCE”のゴキゲンなカヴァーは、オリジナルを知る知らないにかかわらず、多くに強烈な印象を与えるオープニング・ナンバーだ(ジャズ者からすると、「良い意味での裏切り」である)。 「Blue-Eyed Soul」と形容される、アイルランド出身のヴァン・モリソン(1945~)というミュージシャン(シンガー・ソングライター)は、私のHNの元ネタであるトム・ウェイツ(1949~)同様、ポピュラー音楽界において独特のポジションにいる存在だと思う。二人共、多くの同業者からリスペクトされている孤高の人。稀代のソウルフル・ヴォイスの持ち主。ジャズ的アプローチも見受けられる。そして、来日公演が叶わない大物である(トムは過去に一度あるが)。 ソロ・デビュー後、2作目のアルバム名ともなった“MOONDANCE”という名曲が発表されたのは1970年のこと。秋元直子が生まれる遥か以前のナンバー。彼女が惹かれたのは、このオリジナルか、後に作者がセルフ・カヴァーしたジャズ・アプローチの方か。 イカすチューン“MOONDANCE”はPVが創られ、「YouTube」で(一部を)観ることが出来る。 アルバムのタイトル曲でもある2曲目の“NO ONE ELSE”はヴォーカリスト自身が手掛けた(英語詞による)オリジナル・ナンバーである。なかなかお披露目の機会のないソングライティングの才を実感出来るのも、リーダー・アルバムの有り難さ。 「no one else」とは、詞の中で「You're my only one」と自ら言い換えてもいるが、ライナーノーツを手掛けたもう一方高井健氏(ジャズ評論家)が記しているように、「他の誰でもないあなた」といった意味合いであろう。 詞の内容が作者の妄想と経験どちらが源かの詮索はさておき、素敵なラヴ・バラードだ。ナタリー・コールやロバータ・フラックとのデュエットの頃(70年代末~80年代前半)に特にハマっていた、ピーボ・ブライソンに歌って欲しいとふと思った(「秋元直子withピーボ・ブライソン」名義のデュエット・ヴァージョンを勝手に夢想)。 秋元直子のライヴでそのパフォーマンス(歌唱)を目の当たりにしていつも実感していることだが、英語詞の言葉ひとつひとつの扱い(声の発し方)が実にイイ。第ニ節の繰り返し部分で登場する、「smile」に対する「kiss」、「eyes」に対する「touch」の響きの「生命力(息遣い)」はヴォーカリスト(ソングライター)の「情操」の顕れの何ものでもないと(個人的に)思っている。 秋元直子の歌うスタンダード・ナンバーをライヴで数多聴いてきた我々ジャズ者を安堵させてくれるのが3曲目。 ガーシュウィン兄弟による名曲“I'VE GOT A CRUSH ON YOU”。1928年のミュージカルの為に創られたラヴ・ソング。ヴォーカリスト自身が訳しているように、「あなたに夢中」といったところ。 この時経ても廃れないスタンダードは、是非、ヴァース(本編に対する前置き部分)を含めた歌詞を味わいつつ、王道バラードの魅力に浸って欲しい。 4曲目に位置するのが、これまた70年代の名曲、“THIS MASQUERADE”。 シンガー・ソングライター、レオン・ラッセル(1942~)の代表曲(実は私もなのだが、カーペンターズのカヴァーから知った向きも多いかと思う)。 秋元直子の歌唱は、ジャジーではあるが、軽やかなスキャットも功を為し、重量オーヴァー回避の都会派アプローチとなっている(ライヴ・ヴァージョンではどんな化学変化を魅せてくれることだろう)。 5曲目、“センチメンタル”は平井堅のカヴァー。 秋元直子のJポップへの(日本語による)アプローチは、これまで、老舗クラブを含め、ライヴでも何度か体感してきた。この曲ではないのだが、その場にいた全ての観客(&店のスタッフ)が、音の連なりに乗せた彼女の発声による日本の言の葉に傾聴していた密な空気感を思い出す。 秋元直子にとっては、言語やジャンルの違いは重要ではないと認識出来るパフォーマンス。 続く6曲目“あじさい”も日本語による歌唱。オリジナルだが、ヴォーカリストは作曲のみを担当。 季節の谷間に淡く咲く存在に眼差しを向けた、瑞々しい感性による日本語詞が(素朴ながら)静かに染み入る。 お馴染みの7曲目“FLY ME TO THE MOON”は、元々は1954年に発表された“IN OTHER WORDS”という原題のワルツ調ナンバーだったのだが、1962年に現在のタイトルに改題し、ボサノヴァ・アレンジにしたところ、広く一般に知られるようになった。 ジャズではスインギーな4ビートがサマになるように思うが、秋元直子のように、情感重視でしっとりと歌われるのも余韻を残して佳いものだ。 1920年代のスタンダードからこの21世紀に産まれたJポップやオリジナルまで。バラエティに富んだ選曲は、ジャズに縁遠い方、これからジャズを聴こうとしている方にも受け入れられ易いものであろう。 《秋元直子『NO ONE ELSE』:共演ミュージシャン等》 彼女をサポートするメンバーは、都内や横浜のライヴ・シーンではお馴染みの実力派揃い。 遠藤征志(p)、清水昭好(b)、大村亘(ds)のピアノ・トリオに加え、スペシャル・ゲストに、フルートの井上信平、サックスの松田靖弘、トランペットの類家心平。 強力な布陣。デビュー・アルバムには申し分ない面子(個人的には、「貴公子」遠藤征志さんと重鎮井上信平さんの参加がとても嬉しい)。 それから、畏友でもある敏腕音楽プロデューサー宮住俊介氏が(3曲目のスタンダード・ナンバーで)アレンジャーとして参加していることも特筆しておきたい(氏と出遭ったのは80年代末の自由が丘、二人の共通の知人が経営していた欧風酒亭のカウンターでだったから、長い付き合いになる)。 宮住氏もまた、ジャズ・ヴォーカルの新星秋元直子を何年も見守り続けてきた一人。 年上と年下の畏友、才人御二人と共に今回のアルバムに関われてとても喜ばしい。 《秋元直子(あるいは「ジャズ」)という「事象」》 秋元直子の歌声(ジャズ)がどういう魅力か、どう素晴らしいのか、私が長々と書くよりは、アルバムを一聴し、体感していただくのが一番かと思う。 ライヴに足を運ぶ老若男女が何故魅了されるのか、その初伝となろう。 そして、都心に赴いた際には、彼女(ジャズ)のライヴを体感してみたいとも強く思うことだろう。 是非、聴いてみて欲しい。 ☆秋元直子さんの公式サイト(御人柄が伝わるブログを含む)。 http://akimotonaoko.com/ ☆ジャズ・ヴォーカリスト秋元直子(及びその生歌)との初遭遇の記。 [ジャズ・ブログ【ALL THAT WJJ】2007年9月1日付] http://dp.tosp.co.jp/index.php?action=blog_view_entry&ocd=user&oid=5596&eno=1309&tno=42&page=3 (2012年春・記)

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